満を持して登場したダイパリメイク
ゲームのリメイクにあたっては、なにを変更するのか・どんな新しい要素を取り入れるのか 等々、制作側からしても非常に難しい問題だ。『ポケットモンスター ピカチュウ』のリメイクにして『ポケモンGO』で獲得した新規層を強く意識した意欲作『ポケットモンスター Let’s Go! ピカチュウ・Let’s Go! イーブイ』は楽しさや親しみやすさを感じる一方で、よりシンプルに簡略化されたゲームデザインも特徴的で、この方向性は度が過ぎると既存ユーザーやファンの購買意欲・興味を欠く恐れもある。
しかしながら、リメイク最高傑作と名高い『ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー』(ポケットモンスター 金・銀のリメイク)のように、既存の要素と新たな要素を上手く組み合わせた素晴らしい作品を期待してしまうのは、リメイクされる作品に特に思い入れの強いユーザーであればあるほどに仕方のないことだろう。
ポケモン作品特有の期待感
ポケモンのリメイクには他作品にはないポケモン特有のユニークな空気感がある。具体的にはユーザーの期待に幼少期のノスタルジー(思い出)が大きめの比重で掛かっている。これは子供の頃にゲームをデビューするにあたりポケモンが初めてであったり、あるいは比較的デビュー初期の段階でポケモンの虜になった経験が世の中にありふれているからだ。
ダイパに限らず初代をはじめとする各世代からポケモンをプレイしてきたファンも同様ではあるのだが、特にこの第4世代においては”ダイパキッズ”と称されるダイパリメイクに過大な期待を寄せる大勢の存在が一般的に認知されており、シリーズの中でも独特な期待感をもってリメイクが待ち望まれてきた。
第1世代~第3世代(ルビー・サファイア)まで多少の賛否両論はあれど素晴らしいリメイクが成され、また今回はこれまで以上に期間が空いているという経緯もあり、ファンやダイパキッズ達の期待は最高潮に達していたのである。
デフォルメ”2頭身キャラ”の是非
さて本作『ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール 』は、情報が解禁されてからというもの賛否両論を巻き起こし各所で議論され続けてきたわけだが、実際にはどんな出来に仕上がっているのだろうかー。
今回のリメイクでは、3Dのデフォルメキャラをベースとして世界観が構築されている。
今までのリメイクの流れから言えば、発売時の最新世代の技術で表現されることが期待されており、今回はやはり最新作『ポケットモンスター ソード・シールド』のグラフィックやシステムをベースとした、原作を大切にしつつも新しく生まれ変わったダイパを望む声のほうが大きかった、ということになるのだろう。
とはいえデフォルメされたグラフィックは好みや(原作に対する)考え方の問題でもあり、作品の良し悪しを左右するものではないと考えている。なお、バトル画面に関しては、通常時のデフォルメ描写とは対照的に最新世代と同様の頭身で表現されている。
バトル画面では高い頭身に加えて奥行き感も感じられるため、通常時により一層の安っぽさや手抜き感といったようなネガティブな要素として感じられてしまうことも人によってはあるかもしれない。バトル画面がこの描写であった以上は、通常時も同じ頭身や奥行き感で冒険を楽しみたかったという声はあって然るべき意見だろう。
プラチナ要素・追加要素
残念な部分のひとつとしてプラチナ要素がほぼ排除されており、追加要素も乏しいという点がある。『ポケットモンスター プラチナ』はいわゆるシリーズ恒例のマイナーチェンジ版(3色目)にあたる作品であり、ダイパの部分的な調整・改善や新たな要素が加えられた第4世代の完成形ともいえる作品だ。
BDSPは原作ダイパの忠実なリメイクといえばその通りなのだが、今までのHGSS(ハートゴールド・ソウルシルバー)やORAS(オメガルビー・アルファサファイア)といったリメイク作品では、マイナーチェンジを含むオリジナル版をベースとしつつも新要素や最新世代のシステムやグラフィックを投入し、当時プレイした人もそうでない人も新鮮な気持ちで楽しめる新たな作品として生まれ変わったような印象が大きかった。
そうした背景もあり、一部ではBDSPをリメイクというより単に原作(ダイヤモンド・パールの2作)準拠のグラフィック向上・リマスター作品のようなものであるとして捉える傾向にもある。実際のところ本作では、これまでのリメイクほどの「新たな感動やワクワク感」を得ることは難しいかもしれない。HGSSやORASのような作品を期待していたトレーナーからすれば期待外れとなってしまったわけだ。
ゲーム単体でみれば良作
情報解禁時から批判の声が大きい印象の本作だが、ゲーム自体の出来が悪いかといえばそうではなく、決して駄作やクソゲーといった部類にカテゴライズされるべき作品でもない。ネット上で度々見かけるような辛辣な意見も、そのほとんどが原作への思い入れの強さゆえであり、純粋なゲームに対する評価とは別のものだ。ゲーム自体のシステムとしては、近年のシリーズ仕様に合わせて改善・調整されている部分も多々あり、子供から大人まで楽しめる作品になっている。
ポケッチで野生のポケモンを呼び出してひでん技を繰り出すシステムにより、ビッパなどのひでん要員をパーティに入れる必要性がなくなっているほか、第8世代仕様の経験値分配システムにより育成が容易になりレベル格差が起きづらくなっていたり、オートセーブに対応していたり、主人公の着せ替え機能があったりと近年の仕様に調整され遊びやすくなっている。
記事掲載時点で追加要素は少ないが、後に追加DLC(ソード・シールドでのエキスパンションパスのような形式)や無料アップデートで、プラチナ要素や新たな追加要素、LEGENDSと連動したストーリーなどが配信される可能性も少なからずあるだろう。
リメイクとしての新要素
数少ない新要素として『地下大洞窟』がある。原作にもあった『地下通路』を調整し再構築したもので、化石を掘ってアイテムを入手したり、原作では出会えなかった野生ポケモンを捕獲したりすることができる。これにより旅パの選択肢が広がっており、従来のダイパにあった、殿堂入り前の旅パではほのおタイプがポニータ一択問題(御三家除く)も解決している。
また、原作にあった『パルパーク』の代わりに『ハマナスパーク』という殿堂入り後に訪れることができる施設も追加されており、ここでは地下探検で得たアイテムを使用して伝説のポケモンに挑むことができる。これらは追加要素として楽しめるものになってはいるものの、やはりこれだけではリメイクとしては少し弱いという印象だ。
また、リメイクの楽しみのひとつであり作中を盛り上げる要素として音楽も挙げられる。ポケモンシリーズ全体でみても高い人気を誇るシンオウ地方の楽曲群だが、ダイパリメイクでは原曲の雰囲気を残しつつもさらに進化した素晴らしいBGMの数々を聴くことができる。当時プレイしていたトレーナーにとって作中のBGMは冒険した思い出を彩る大切な要素であり、新規の方々にとっても、音楽が素晴らしく仕上がっていることは間違いなく評価できる点といえるだろう。
最後に
結論として、2022年に発売を控える『Pokémon LEGENDS アルセウス』に向けて、『ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール』はシンオウ地方の世界観やストーリーを補完するための選択としては悪くないだろう。
また、原作に忠実な内容であるため、ダイパという作品そのものの面白さは保証されており、単に思い出に浸りたい・ダイパを久しぶりにプレイしたい方や、そもそも原作を未プレイの方、剣盾でポケモンデビューした子供たちにも間違いなくオススメできる良作だ。ただしHGSSやORASのように新しく生まれ変わったリメイクを遊びたいという方は要検討といったところだ。