『ポケモンショートストーリーズ』では、各地のポケモントレーナーの皆様から寄せられた体験談やショートストーリーを掲載しています。
鋭い目のあいつ
寄稿者:ポート(9歳 男・ハロンタウン)
僕の名前は、ポート。ハロンタウンに住んでいて、今年で9歳になる。勿論、ポケモンが大好きで、将来は、パートナーを連れて、冒険の旅に出たいと思っている。
この辺りでは、10歳になると、大体の人が街を出て旅に出かける。逆に言えば、9歳までは、まだまだ身体的にも精神的にも未熟ということで、街から出ることもあまり許されない。だから、小さな子供たちは、ポケモンのカードを集めて、それでタイプ相性を覚えたり、自分がパートナーとしたいポケモンに思いを馳せたりするのだ。
僕も例外ではない。ポケモンカードはたくさんコレクションしている。中でもお気に入りなのは、アーマーガアだ。初めてゲットしたキラカードで、その鋭い目つきと、カードに描かれた勇敢な姿に、一目で惚れた。絶対に、パートナーにするなら、このポケモンだ。そのために、ココガラを最初のポケモンにするんだ。
◇
ある日、僕は、近所の子供たちと、自分のカードコレクションの見せあいっこをしていた。それぞれが自分の思い思いのお気に入りポケモンカードを見せあって、将来はこのポケモンと旅に出る、などと話していた。その内、そろそろ暗くなるからと皆自分の家へ帰り始めた。僕も、自分の家に帰る。帰り道、僕の家は、まどろみの森の入り口前を通らなくてはならない。だから、当然今日も、その道を通って帰る。
ちょうど、森の入り口前に差し掛かったときだった。自分の目の前を、黒い影が横切った。何事かとその影が言った先を見る。アーマーガアだ。本来、まどろみの森の奥にしかいないと言われているのに、なぜか、こんな入り口まで来ている。もしかしたら、森の奥では餌が取れず、入り口まで来たんだろうか。
僕は、初めて見る本物のアーマーガアに目を奪われた。やっぱりかっこいい。僕は、ふらふらと、森の中へ入っていった。街の大人達は、森に入るのは危ないと言っていたけど、少しくらい大丈夫だろう。アーマーガアの行く先を、追いかけていった。
アーマーガアは、スピードを上げて、木と木の間をするするとすり抜けるように飛んでいく。僕はいつのまにか走り出しており、木にぶつかりそうになりながら、何とかついていった。
ふと、アーマーガアが飛ぶのをやめて、木に停まった。やっとゆっくり見ることができる。僕は安堵した。だけどそれは都合の良い考えだった。アーマーガアは、ずっとついてきている僕の存在に、とっくに気が付いていた。自分のテリトリーまでおびき寄せて、襲うつもりだったのだ。
僕は、そこで初めて、森の奥深くまで来てしまったことに気が付いた。僕が惚れた、鋭い目つき。だけど、その視線の先には、僕がいる。その圧力はすさまじく、一歩も動けない。
どうしようと、考えたその時、僕の横から、何かが出てきた。
サッチムシ?虫タイプのポケモンで、確か、カードで持っている。だけど、全然好みじゃないから、ファイリングしたりせずに、適当に箱に押し込んでいたはずだ。なんでこんなところに。
そう思っていると、サッチムシは、アーマーガアに攻撃を始めた。一生懸命、むしのていこうを見せている。でも、アーマーガアには、タイプ相性も、レベル差もあり、全然通用しない。その内に、仲間のサッチムシもたくさん現れて、みんなで攻撃するけど、やっぱり通用しない。アーマーガアは、今日の餌が増えたと言わんばかりに、サッチムシたちを捕まえようと攻撃を仕掛けてくる。もう、ダメかと思った。
その時、サッチムシたちの間から、赤と黒の模様のポケモンが現れた。
イオルブだ!
サッチムシから進化する、最終形のポケモンだ。多分、サッチムシの群れの、長なんだろう。イオルブは、アーマーガアに負けない速さで動き回り、エスパータイプの技と思われる光線で攻撃を仕掛けた。決して、タイプ相性はよくない。だけど、その必死の戦いぶりに、アーマーガアは怯んで、ついには巣に帰っていった。僕は、イオルブの相手を見据える鋭い目つきと、勇敢な姿に、目を奪われていた。
それから僕は、どうにかこうにか家に帰った。お母さんにはこっぴどく叱られたけど、なぜだかとても充実した気もちだった。きっと、サッチムシも、イオルブも、自分の住み家、そして仲間を守る為に戦っただけで、僕のことは眼中になかったかもしれない。だけど、僕にとっては、とてもかっこいいヒーローだった。
◇
1年後、僕はついに冒険の旅に出かけることになった。
パートナーとするポケモンは決めている。
鋭い目つきで、カードに描かれた姿が勇敢な…
イオルブ!
僕はあの日から、イオルブに夢中で、カードもお小遣いを使い果たしてゲットした。そして、絵の中の勇敢な姿を見て、あの日の姿を思い出し、何とも言えない高揚感を得ていた。
勿論、初めからイオルブを連れてはいけないから、最初はサッチムシから。今はまだ、未熟な僕と、サッチムシだけど、いつか、あのイオルブのような強いポケモンと、それを操る凄いトレーナーになるんだ。
さあ、冒険に出掛けよう、サッチムシ!