ばあちゃんのキュウコンと俺、それから俺たちと出会う全ての人
2023-07-19

ばあちゃんのキュウコンと俺、それから俺たちと出会う全ての人

俺は今、死んだばあちゃんの相棒のキュウコンと旅をしている。
ばあちゃんとキュウコンはすごく長い付き合いで、家にある1番古い写真には7歳くらいのばあちゃんと、当時はロコンだったキュウコンが写ってる。それからキュウコンはばあちゃんとずっと生きてきた。ばあちゃんの初恋も、失恋も、結婚も出産も、出会いも別れもその全てに立ち会ったんだそうだ。
ばあちゃんのキュウコンは凛としていて、かっこよくて、俺はキュウコンのことを兄貴って呼んでる。まじでカッコイイんだ。

キュウコンは長生きで有名なのはみんな知ってると思う。当然のように、ばあちゃんはキュウコンを置いて逝った。いつも耳をピンと立ててかっこよかったキュウコンは、すごく落ち込んでいた。魂の半分を失ったように、いつもばあちゃんの座っていた縁側を見つめていた。正直、後を追ってどこかへいってしまうんじゃないかと心配だった。

そんなときだった。ずっと手をつけられなかったばあちゃんの部屋の整理をしていたら、キュウコン宛の手紙を見つけた。死ぬ前にほとんど物を捨ててしまったばあちゃんの、数少ない遺したものだった。
ま~それはそれは長い手紙で、便箋の枚数は十枚をゆうに超えていた。
要約すると、「私とあなたの魂の欠片を探しなさい。孫を好きに使っていいわ」とのことだった。

キュウコンの隣で手紙を読むと、キュウコンは久々に耳をピンと立てて俺の顔をじっと見つめた。きっと俺を通して、ばあちゃんを見ていた。
最後まで読み切るとキュウコンは立ち上がって、俺の部屋から俺の荷物を持ってきて、それからばあちゃんの遺影の近くに置いてあった自分のボールを持ってきた。

さあ、行くぞ。荷物を持て。そう言われている気がした。
そのまま俺は家を出た。父ちゃんも母ちゃんも外出中だったから、完全に事後報告。その時は頭からすっかり抜けていて、隣町に着いたあたりで母ちゃんから電話があって何も言わずに出てきたことを思い出した。キュウコンと旅に出る、と言った俺を一頻り叱った後、仕方ないから行っておいで、センターに着いたら連絡を入れてくれれば必要なものを送ってやる、と言われた。まさか送り出されると思わなかったからすごく驚いたのを覚えている。

それから俺はキュウコンと旅をしている。旅の途中で仲間も増え、今では一人と三匹の旅だ。
キュウコンが先頭で、その次に俺。頭の上にモクロー、カバンの中にエレズン。キュウコンの後を追って街を移動して、ばあちゃんとキュウコンが八十余年かけた残した足跡を探して回ってる。ばあちゃんとキュウコンが植えたきのみの木、壊した遺跡の壁、ウン十年前にばあちゃんと何度もポケモン勝負を繰り広げたじいさんは、俺たちのことを快く出迎えてくれた。

キュウコンは長生きで、一説では1000年生きるという。
ばあちゃんのだけでは足りないから、俺も残していこうと思う。いつか結婚して、俺の子供や孫が残してくれたらもっといいと思う。
キュウコンの耳がピンと立ったままでいられるように、そんな風に生きていきたい。

ばあちゃんの命日なので記念に。
旅の途中で見かけたらぜひ話しかけて欲しい。キュウコンが寂しくならないように、いろんな人と関わりたいんだ。

そして俺たちと出会う全ての人へ、これからの未来でばあちゃんのキュウコンに会うことがあったら、どうか遊んでやってほしい。人と遊ぶのがいっとう好きだから。

俺たちの旅はまだ終わらず、キュウコンの道のりはさらに長い。
兄貴の道が賑やかでありますように。

男性
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