本日、カルト的人気を誇る任天堂の名作RPG「MOTHER」シリーズの3作目にあたる「MOTHER3」がTwitterにてトレンドワード入りしていた。MOTHERに限らず、過去に発売された名作と呼ばれるゲームがトレンドとして挙がることは珍しいことではない。リメイクであったり、グッズが発売されたりと理由は様々だが、今回の「MOTHER3」トレンド入りは「ゲーム実況」に起因する。
具体的には、バーチャルYouTuber猫又おかゆ氏(2021.02現在、チャンネル登録者80万人超)がMOTHER3の実況プレイをしており、多くの視聴者が見守るなかクリアを果たした。そして、それを見た視聴者が感想をツイートした結果トレンド入りしたという流れだ。このようなゲーム実況によるゲームタイトルのトレンド入りという光景は近年ではよく見られるようになったと感じている。
しかしながら、筆者はこういった光景を目にする度に、一抹の切なさ・あるいは虚しさのような感情を覚えてしまうのである。同じような感情を抱いているのは私だけではないはずだ。
感情の正体
まず前提としてゲームに限らず好きな作品がトレンド入りするというのは非常に喜ばしいことである。過去の作品が再び話題になっていることに対して1ファンとして喜びを感じるのは当然だ。
だがしかしどうだろう。今回のようなゲーム実況から発生するトレンドに関しては、少なくとも今回は喜ぶことなどできなかった。トレンドを一見し嬉々としてワードをクリック、状況を確認した後の感情たるや。
並ぶコメントを一部抜粋しよう。「“個人的神ゲー”に出会わせてくれた猫又おかゆさんに感謝」「昨日のMOTHER3で泣いた、、、”初めてゲームで泣いた”、、、今でも忘れられない」
個人的神ゲー…?
初めてゲームで泣いた……?
そこまで言わせるほどの素晴らしい体験が事実上”体験”なしに語られている。語られてしまっている。まさかのちに好きなゲームとして「MOTHER」の名を挙げたりするのだろうか―。そんなしょうもないことを考えてしまう。
RPGというゲームジャンルにおいてはその名の通りロールプレイ(役割を演じる – 例えばフィールドを自由に旅したり会話したり寄り道したり)と付随するストーリーを楽しむという体験が重要で、再プレイ時に同じ体験を味わうことは難しい。ゲーム実況によってゲームが宣伝されプレイ人口の増加に繋がるのは確かだが、良質なゲーム体験は間違いなく失われている。
別に上で紹介した方々やゲームの実況者が悪いといっているわけではない。ゲーム実況によって失われる数多くのゲーム体験をただただ憂えているのだ。
ゲーム実況を見る人達はそもそも一生そのゲームをプレイすることなどなかったかもしれない。そんなことは分かっている。それでも、私たちが「MOTHER」をはじめとした名作たちを初めてプレイしたときのあの体験が、その機会が、今もこの瞬間にも失われていっているという事実に私は悲観してしまった。ただ、それだけの話だ。
ゲームのこれから
上述した通り、近年のゲームの楽しみ方として、従来の「体験」だけでなく新たに「視聴」というスタイルが確立されつつある。
ゲームのプレイスタイルには「ヘビーゲーマー」「ミドルゲーマー」「ライトゲーマー」「カジュアルゲーマー」といった分類があるが、見るだけといった分類があってもいいのでは?と思い調べたところ既に海外の調査会社により分類されていた。「ポップコーンゲーマー」(自分でゲームをすることはあまりないが、他人のゲームプレイを見るのは好きなゲーマー。)と言うらしい。この「見るだけの”ゲーマー”」という分類があらゆる場面で広くポジティブに使われていくようになる未来もそう遠くはないのかもしれない。
新たな発見として、以下のような書き込みもあった。
「配信の後半はもうぼろ泣きでした…そしておそらく“自分一人じゃ感情移入はほとんどしなかった”と思うので、おかゆんの配信で観られてとても良かったと思いました!」
プレイヤーの心情を逆撫でしかねない発言ではあるが、なるほど実況者の感情に共感して感動する…。ポップコーンゲーマーだからこその体験といえる。
最後に、面白いツイートがあったので引用。
最近は良くない苛立ち方かなと思うようになって、トレンドワードに昔のゲーム名が入ってた時に、Vがやったからトレンド入りしたか否かクイズをやるようになった。今日はMOTHER3の関連ワードにプレイしたVのハッシュタグが入ってて、これじゃクイズにならねえだろ!ってツイッターにキレてた
— あもちょこ(田中☆ゼイビアックス) (@amochoco) February 2, 2021