ゲームフリーク:インタビュー
ゲームフリークの大森滋氏(36)が『ポケモン』に関するインタビューに応えた。
■大森滋
2001年に新卒でプランナーとして入社。『ポケットモンスター ルビー・サファイア』の制作に関わり、『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』ではプランニングリーダーを務める。さらに『ポケットモンスター X・Y』でプランニングディレクターを経て、『ポケットモンスター オメガルビー・アルファサファイア』『ポケットモンスター サン・ムーン』でメインディレクターを務める。
なぜジムではなく試練なのか
大森氏は『サン・ムーン』は『ポケットモンスター 赤・緑』から20周年の節目にあたる作品だから「『ポケモン』をもう一度、最初から作りたい」と思ったとのこと。そして「本当に手持ちは6匹でいいのか? 本当にジムのバトルでいいのか?」といった基本的な部分から徹底的に考え直したという。なぜ、ポケモンを作り直すことが、ジムの廃止につながったのか。
ポケモンを主役に
大森氏:例えば、ジムは「トレーナーvsトレーナー」の戦いになるので、プレイヤーが「ライバル感」は覚えられる。その点は素晴らしいけど、僕は今回「ポケモンを主役にしたゲームに出来ないものか」と考えてみたかったんですね。ここは今作の「作り直し」で重視したアイディアです。
ディレクターとして、「なぜボスになるんだろう?」とか「ギミックは人工的なものではなくて、自然を相手にすべきだろう」などと突き詰めて考える必要がありました。そして設定の担当スタッフとも、ポケモンの性質をこれまで以上に詰めなければいけなかった。バトルの担当スタッフとも協力して、とにかく全てのシステムを上手くマッチさせることで、やっと新しい仕組みが生まれました。
誰もが同じ難易度で
大森氏はポケモンGOの影響で昔ポケモンを遊んでいた人たち(いわゆる復帰勢ですね)が多く戻ってくることや、完全な新規プレイヤーを考慮してゲームデザインを構築しているようだ。
大森氏:20周年の節目となる作品ですから、長く遊んでくれているユーザーや、新規のユーザー、どんなユーザーも同じ気持ちで楽しめることを目指す。それは今回のゲームを作りながら、ずっと強く思っていたことでした。
だから、昔から遊んできた人と新しく遊びに来た人が、同じ難易度で遊べるゲームに『ポケモン』を変えたかったんですね。そこで考えたのが――「試練」でした。これならば、ずっと遊んできた人も初めての人も、新鮮さを覚えてくれるんじゃないか、と。
ジム戦の”気持ち”を再現
ジムとは確かに異なるものではあるが、試練に挑むトレーナーの気持ちはジムに挑むときのそれと変わらない。
大森氏:「試練」のジムとは違った遊びやイベント、ボスである「ぬし」ポケモンとの戦いは、ジムトレーナーとジムリーダーへの挑戦が中心であったジム戦とはまったく異なるシステムですが、当時ジム戦で苦戦したプレイヤーの皆さんの「気持ち」を、そのまま再現できていると思います。
インターネットとの向き合い方
初代『ポケットモンスター 赤・緑』の時代には普及していなかったインターネットだが、今はインターネットが大幅に普及している。そういった時代背景から、インターネットを意識したゲームの設計が為されているようだ。
序盤から印象を変える
大森氏:今でも教室での「口コミ」による伝播はあると思うけど、やはりネットの「書き込み」による伝播は大事ですね。だから、ゲームを作っていく段階で、どうすれば発売日の最初の1時間に「これまでとは違う面白さだ!」という書き込みがネットに出てくるのかは考えました。
やはり、最初の印象は凄く重要です。そこで「前と変わってないよね」と言われたくなかったので、変化を印象づけるよう、リーリエが追いかけられるイベントを入れたり、試練を早めに体験させたりして、とにかく口コミを誘いました。
攻略レベルの考え方
大森氏:難易度の考え方も変えました。昔は単純に強い敵がいたら、必死にレベル上げをしてクリアして、やっと達成感を得られる……という感じですよね。でも、やっぱり現代では、難易度を上げすぎてしまうと、クリアできなくてやめてしまうという問題があります。そこで僕らは、「頑張る場所」を変えました。
今回は、どうぐを事前にかなり配ってしまったんです。もう敵と対決できるどうぐは、全部与えてしまうくらいでいい。そして、「こいつ強いぞ」「クリアできないぞ」となって、ふと回復のポケットを見てみれば、回復できるどうぐもほぼ入ってるようにしています。これはインターネットでの検索やコミュニケーションを想定した仕様です。
現代のゲーム設計の在り方
大森氏:例えば、「スイレンの試練」なんて、かなり相手が強いんですよ。そこで検索したときに、攻略サイトに「レベルを上げれば倒せます」と書かれていたら、もう今のユーザーはやる気が出ないと思いますね。
でも、検索した先に「実はこのどうぐを使えば勝てるよ」と書かれてあれば、やる気が出ると思いませんか? そこには「発見」があるじゃないですか。解決のキッカケは全て用意してあって、自分で発見してもいいし、検索して見つけてもいい。僕は検索スキルだって「能力」だと思っていますから、検索エンジンで解き方を見つけた場合でも満足感を得られるようにするのが、現代のゲーム設計のあり方だと思っています。