常盤と紫苑
寄稿者:フユキ さん(男性・トキワシティ)
ある体験を記録するため、日記をつけようと思う。
あれはシオンタウンと呼ばれる街に立ち寄った話だ。カントー地方で賑わっているタマムシシティやヤマブキシティの近くにある小さな街、シオンタウン。会社の長期休暇を利用し1人でカントー地方を旅をしていた私は、大きな街の活気溢れるムードに少し疲れてしまい、静かで落ち着ける場所を求め、シオンタウンへと足を向けた。
最初こそ街が持つ暗い雰囲気に多少の不気味さを覚えたが、人に話しかけると穏やかで親切だ。中にはポケモンの姓名判断している少し変わった有名人もいるとか。しばらく街中を探索しても特に変わったものもない。
…だからだろうか。
街にそびえ立つポケモンタワーが不気味なオーラを帯びていることに強く違和感を感じた。その違和感を確かめるべく、私はポケモンタワーに向かった。
◇
そこは広く静かで、ただただたくさんの墓標が広がる場所だった。外で見た不気味さとは違い、どこか神聖な雰囲気に少し唖然とした。ここはポケモンの眠る場所だ。そんな場所に不思議な気持ちになりながら更なる興味を感じ、私は奥に進むことにした。階段を上り進んだところで何か得体の知れないものの気配を感じて身震いをした。と同時に、何か擦れるよう声が聞こえた。
「カ・・・・エ・・・レェェ」
私はあたりを見渡し探したがそこには墓標が見えるだけで何もいない。気のせいか、と安堵しさらに先へ進もうとした。
しかし…何かおかしい……
進まないのだ…
足は動かしているのだが進まない。そしてまた声が聞こえる。今度ははっきりと、どんどんどんどん聞こえてくる。私は目を見開き、声の正体を探す。すると目の前に黒い霧が突如出現した。そして…
「カエレェェェェェェ!!!!!!」
そう聞こえた瞬間、その黒い霧は大きく広がり私を包み込み
めのまえがまっくらになった。
◇
気が付くと私はポケモンセンターの前にいた。何が起きたかわからずあたふたしたが、自身に何もないことがわかると安心した。しかし、ポケモンタワーで自分に何が起こったのかがわからなかった。
あの黒い霧はいったい?
私は不気味に思い早々に街を出た。
◇
私の故郷のトキワには不思議な言い伝えがある。
トキワに生まれる人の中には、大地の力やポケモンの不思議な力を感じ、その目には見えない力を自分自身と結びつける能力を持った人がいる、という話だ。
この体験をするまでこんな話はすっかり忘れていたのだが、もしかするとポケモンタワーという不思議な空間のなかで私のなかの眠っていた能力が反応してしまったのかも知れない。もしくはあの場所にいる何か強い力が無理やり私の能力に語りかけてきたのか。
ポケモンタワーはポケモンの眠る場所。
あれはポケモンだったのか?あるいは?
今の私にはそれを理解できなかった。