再会
チリンチリン、と子気味良くベルを鳴らす音が聴こえてくる。
散歩の途中、静かな町では聞き慣れない音だと思い、町の入口へ目を向けた。
赤い帽子を被った若いトレーナーが自転車に跨り、砂利道を走っていた。
「最近の若い奴はすぐに楽をしたがるな」
ぼそりと独り言を呟き、日課となった墓参りへ向かう。
ポケモンタワー。
観光地、あるいはランドマークのような名前をしているが、ポケモンのための墓地だ。
お供えものを手に相棒の名が刻んである墓石へ近づく。
いつものように線香に火を、まんじゅうを半分に千切って石の前に置いた後、片方は自分の口へ運んだ。
お前が亡くなってからもう10年か、そんな事を考えていると、ついさっきすれ違ったトレーナーがこちらの様子を伺っているのに気付いた。
「お前さん、さっき自転車で…」
そう言いかけた時、そのトレーナーは目を見開き、血相を変えてタワーから去って行った。
「人の顔を見るや否や、なんなんだ?
楽をしたがる上に礼儀もなってないのか、まったく」
呆れて独り言を呟いた。
「いかんな、年を取ると独り言が増えてしょうがない」
そう石になった相棒に語りかけ、またくる。とタワーを後にした。
◇
数日後、墓参りをしているとまたあのトレーナーがいた。
今度は見慣れないメガネのようなものを持っている。
そのメガネを通してこちらを見た後、少し微笑んでからそのメガネをこちらへ差し出した。
不思議に思いながらも、それを手に取る。
「これをどうする?何故俺に?」
トレーナーは、いいから、かけてみて。とどこか憎めない表情で言った。
渋々そのメガネをかける。
足元でゆらゆらと、
見覚えのあるオレンジ色の尻尾の先に、あの時と同じ炎が踊っていた。
大好きだったまんじゅう片手に、
アイツが俺に向かって優しく微笑んでいた。