あれは、まだ幼い頃のことだ。親の友人が譲ってくれたとかで、家にポケモンのタマゴがやってきた。
タマゴは連れ歩くと孵化するという話なので、僕が連れ歩く事になった。
だが、子供というのは失敗するのが仕事だ。
そして僕も失敗した。
その日は、少し動くようになってきたタマゴを友達に見せびらかした後の帰り道だった。
空は薄暗く空気も湿り気を帯びていて、予報でも雨が降ると言っていた。
案の定途中で雨が降ってきて、次第に土砂降りになり、水たまりを踏むたびに水飛沫を上げながら走った。
そして転んだ。
あまり痛くはなかった。怪我もしなかった。
代わりに、僕の身体の下には割れたタマゴの殻と、なんだかよく分からないフニャフニャしたものと、それから飛び出した長いものと、雨とは違う液体がぶちまけられていた。
フニャフニャしたものはヒクヒクしていたが、すぐ動かなくなった。そして、水たまりに雨粒の波紋が広がっていくのに合わせて沈んでいき、ついに見えなくなった。いや、その場から消え失せていた。
水たまりは底が見えるどころか、手のひらが浸かる程度の深さしかなかったのだ。沈むだけの深さなどありはしない。見えなくなる少し前に、幼い子供の笑うような声が聞こえたような気がした。
呆然として雨に打たれる僕を、親が探しにきてくれて連れ帰り、いつの間にか家に帰っていた。
親は、タマゴを割ってしまうのは、実は珍しくない事なんだと慰めてくれた。
親が回収してくれた殻を埋めてお墓を作った。
それでも僕はその日以来、水たまりを避け、見ないようにして歩く。
何かに見られているような、あの声が聞こえるような気がしてしまうから。