普段ポケモンの研究所の職員がこのようなところに投稿はしないのですが、ご本人から許可をいただいたこと…そしてなにより(一部内容を変更していますが)とても素晴らしい出来事なので皆さんにも見ていただきたいです。
長くなりますがお付き合いください。
始まりは40年以上前のこと。私は学校を卒業したばかりのエスパータイプ専門の研究員でした。右も左もわからず上司に怒られながら毎日研究漬けの日々を送っていました。
ある日、オーキド博士より「子供でも安全に仲良く過ごせるエスパーポケモンを提供してほしい」との依頼がありました。
ここでいくつか説明をさせてください。
まず、私が勤めている所では特殊な依頼に応えることが主な仕事です。例えば「やや青い炎を尻尾から出しているヒトカゲ」や「常に姿を見せているゲンガー」など。時に無理難題とも思えるようなものまで対応しました。
ただ、すぐに依頼を引き受けるわけではなく理由や依頼者の環境などを確認してから引き受けるか決めていました。先程の例にあったヒトカゲはアーティストから、ゲンガーは以前から(ゲンガーと)一緒に過ごしたいと思っていたが妊娠が発覚してしまい、赤ちゃんを驚かさせないゲンガーと暮らしたいとのことでした。
そしてオーキド博士による依頼では父親を亡くし片親となってしまった子供が、母親が仕事でいない時間帯(15:00〜17:30)楽しく遊んでくれるポケモンを求めていました。最初その事情を聞いた時はエスパータイプでなくてもよいのでは?と思ったのですが、その子供がテレビで凄技を出すエスパーポケモンに感動してエスパー以外は嫌と言うほどにこだわりが強かったのです。
そして私は電話をしながらある資料へと目を向けました。
そこにはいつ依頼が来ても対応できるように各地方のブリーダー(育て屋)の住所、そして契約済みのポケモンの一覧がまとめてあります。そこからエスパータイプに絞ってみました。すると現在依頼対応中ではないポケモンがスリープのみでした。
私はこの時、後日連絡するという選択肢が頭に無く「スリープはどうですか?」と言いました。すると博士は「スリープか…!それは面白そうだ!是非お願いしたい!」と楽しそうに反応していました。このことを当時の上司に伝えた時「あの人は電撃喰らっても痛みより愛が勝つ変態博士だから…」とため息混じりに言っていました。
さて、それからは「子供でも安全に仲良く生活できるスリープ」を目指して日々特訓していました。というのも相手はあのスリープ。子供の夢が大好きで、覚えているワザもさいみんじゅつのみでした。
上司とベテランのブリーダーと一緒に「さいみんじゅつを忘れさせるか?」「子供が一定の年齢を迎えるまでは変わらずの石を持たせるべき」「オーキド博士に連絡して改めて別のポケモンを用意した方が安全」など会議を重ねました。
正直この期間は、ほぼ記憶にありません(スリープに記憶を食べられていたかもしれませんね)。
最終的に「スリープ専用の特殊な機械を開発して、スリープにはそれで常に満腹状態になってもらう。そして子供を襲わないよう訓練する」という結論になりました。あとは1ヶ月半ほどかけて(ギリギリ許可を得られるようなラインまで)育て上げ訓練しました。
そして約束の日。お相手の子供と初対面したスリープの反応は今でもはっきりと覚えています。普段は眠そうで何事にも興味を持たないスリープが、いつもより目を見開いて小走りで子供に向かったのです。
おそらく「スリープ」というポケモンの本能として「美味しそうな夢を持つ子供がいる。食べなくては」と思ったのでしょう。しかし訓練の成果が発揮され、私達が制止するより早く子供の数歩前で足を止めました。そして大人しく(反省中のように)「プバァ…」と鳴きました。
私達は顔を合わせました。実はポケモンとしての本能より訓練の成果が上回ることは少ないのです。意思が通じるとはいえポケモンにも心や考えがある。その為今まで99回成功しても、本番の1回で「やっぱりこれはヤダ!」と思ったら訓練で得たことや行動を全て無視してしまうんです。スリープはそれを耐えたのです!
失礼、当時を思い出して熱くなりました。
その後はお相手の家族に共に生活するうえでの注意点やスリープのルーティンなどを説明して、スリープを預けました。
そして現在。
オーキド博士経由でお相手の子供からお手紙が届きました(一部省略しています)。
××研究所の××さんへ
お元気ですか?
お久しぶりです。私は現在ポケモンセンターで働いています。
当時私は幼いながらになんとなく家庭の事情を察して、毎日泣いていたそうです。そしてその様子に困っていた母がオーキド博士に相談した結果、我が家にスリープがやってきたとのことです。
母によると、私が子供の頃見たテレポートし続けるケーシィをきっかけにエスパーポケモンに対するこだわりが凄かったらしいのですが、私自身はあまり記憶に無いんです。
そして、あの日我が家に来たスリープは現在スリーパーとして毎日私を楽しませています。
決まった時間になるとすぐ催眠術をかけるので昼夜逆転せず健康的に過ごしています。また、言葉は通じませんが私が何か悪いことをすると身振り手振りで怒るので第二の親ぐらいの立場になっています。
最近はスリーパーも歳をとってきたのか、丸一日椅子に座っている日が増えました。スリーパーの情報に添付されていたブリーダーさんに連絡したところ、我が家のスリーパーは長寿らしくここまで健康で長生きしているのはとても珍しいそうです。
改めて××さんへ。
あの日スリープを私達家族に会わせてくれて本当にありがとうございます。
スリーパーは未来予知ができるらしいので、もしかしたら自分の寿命を知っているかもしれません。それでも、私はその日まで毎日一緒に過ごします。
お身体に気をつけてお過ごしください。
××より
私は現在研究所の職員…ではなく研究所の所長として生活しています。この手紙は初心を忘れない為、そして何より自分が研究を続けている理由を再確認する為に時折見返しています。
これからも永く幸せに過ごせるような研究を続けていきたいです。
最後まで見てくださりありがとうございました。
自分の仕事が認められるとうれしいですよね。
顧客からの嬉しい意見というのはあまり表に出て来ないものだし気持ちがよくわかります!
真摯にポケモンと向き合った結果ですね。