2023/07/01 20:50

神隠しの裏側

キュウコンにつままれる、という言葉をご存知だろうか。意外なことが起こってぽかんとする、という意味だ。
これは俺にとっては正にキュウコンにつままれたような、そういう出来事だ。

始まりは雨の日だった。しとしとと降る良い雨だった。俺はスクールの帰りで友人の、そうだな、Kとしておくか。Kの傘に入れてもらって帰るところだった。
田舎だし、道は凸凹で水たまりが点在して、避けて傘からはみ出しては雨に濡れるじゃんなどど言ってKとじゃれながら帰っていた。

ふと、Kが立ち止まり、水たまりに赤い色が写っていたという。気になったのか見に行くのを後ろから着いていくと、1匹のロコンが震えていた。

もちろんKはポケモンセンターに連れて行き、元気になるまで看病し、野生に返した。
ロコンは何度も後ろを振り返り、別れを惜しむかのようだったという。

その後は何事もなくスクールを卒業し、大人になって、普通のサラリーマンをしてしばらく経った頃、久しぶりにKから連絡をもらった。
曰く、視線を感じるという。俺もちょうど帰省する予定もあったし、うちに遊びにこいよと言って会う約束をした。

数日後、Kが遊びに来て、話をした。Kは少し前にストーカーにあっていたらしい。結果として犯人は捕まり落ち着いたはずだった。しかし視線は未だに感じる。良い案が出ないまま、日が暮れる前にKを家まで送ることにした。

スクールからの帰り道みたいに、2人で並んで歩いた。
晴れていたのだが、少し歩くと急に明るいまま雨が降ってきた。キュウコンの嫁入りだ。

その時、Kははっとしたように林の奥に目を向けた。どうしたんだと思い、同じように目を向けると、何かが列を成しているのが木々の隙間から見えた。

Kが引っ張られるようにその列に向かって歩き出した。慌ててその後を追った。そこには、紋付や留袖を着たキュウコンが、提灯や荷物や傘なんかを持ってずらりと並んでこっちを見ていた。そしてKの正面には、一際明るい毛並みに白い花嫁衣装に角隠しをつけたキュウコンが1匹いて、Kと見つめあっていた。

呆気にとられたまま少しすると、急にKがこちらを振り向き、
「僕はこのキュウコン達と行くことにした。今まで僕の良き友人として付き合ってくれて本当にありがとう。悪いんだが母さんにも、ありがとうと伝えてくれ。…じゃあ、元気で。」
といい、花嫁衣装のキュウコンの隣に立ち、そのまま列に加わってゆっくりと歩いて行ってしまった。
じきに霞に溶けるように見えなくなり、それがKと会った最後になった。

呆然としてその場に突っ立ったいるといつの間にか霞は晴れ、あとに残ったのは、上がった後の雨の匂いと空の深い青だけだった。

それからというもの、雨の匂いがするとKのことを思い出す。すると水面や鏡面に、Kとキュウコンの笑いあう姿が映し出されることがある。せいぜい3秒くらいだが、Kの幸せを知れて嬉しくなる。こっそりKのお母さんに言ってみたら、やはりKのお母さんもたまに見えるらしい。

その後世間やテレビなどで神隠しだ誘拐だ怪奇現象だと色々言われていたが、Kが幸せならそれでいいと思う。

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