呪いの館

ユウレイ屋敷、呪いの館と噂されている家がある。
外壁がびっしりと蔦に覆われたボロボロの古い屋敷で、あまりにも老朽化が進んでいるため、立て壊そうという話も何度かあった。
ただ、解体工事に関わった人達が相次いで不可解な出来事に遭い、更には次々と原因不明の謎の死を遂げた事で計画は頓挫した。
それ以来放置されている屋敷の周りには、立ち入り禁止のバリケードが張られ、絶対に入らないように、と伝えられている。
しかしある時命知らずの若者達が、夜に度胸試しと称して集団でバリケードを乗り越え、その屋敷に入ってしまう事件が発生した。
帰ってきた若者達のうち1人に聞き取り調査を行なったところ、彼らは屋敷の中で恐ろしい体験をしたそうだ。
これは彼が語った、屋敷の中での出来事を録音し、文字にしたものだ。もちろんTCBに載せる許可は得ている。
「俺らが屋敷の中に入ると、ぽう、と暗闇の中に青白い炎がいくつも浮かび上がったんだ。
大きく、妖しく燃えるその炎を、スマホロトムのライトで照らすと、それの正体はヒトモシだった。
道案内をする奴らに連れられて、屋敷の奥に入った。元は居間だったんだろうが、とんでもなく不気味な光景だったよ。薄暗い部屋の天井で、シャンデラがゆらゆらと揺れている。どこからともなく、不気味な歌と、啜り泣くような声が聴こえてくる。辺りを見回すと、ボールを咥えたグレーのワン公が足に纏わりついて尻尾を振っていた。そいつとボール投げで遊んでやっていると、仲間の1人、あー、とりあえずAとでも言っておくか。Aが「寒い。寒気がする」と言った。俺は深く考えず、雰囲気に呑まれてんだろ、と返したんだが、今思えば、その時点で気づくべきだったんだ。あの場所に普通の無害なワン公がいるわけなかったんだ。多分、Aが寒気に襲われたのはワン公とヒトモシに生命力を吸い取られたせいだ。そういやワン公の頭にもヒトモシみたいな蝋燭がついてやがったな。多分あいつもゴーストタイプだったんだ。話が脱線したが、Aは俺の返事には答えずそのまま倒れてしまった。そしたら天井にいたシャンデラが床に降りてきて、倒れたAを青白い炎で包み込んだんだが、Aの身体が燃え上がったりはしねえ。そいつがAから離れた時にはもう、Aは息をしていなくて、身体も冷たくなっていた。仲間が目の前で死んだ事に動揺した俺らは、後ろにパンプジンが立ってた事に気づいていなかった。ヤツは髪の毛みたいな腕で他の仲間、Bを締め付けた。そんで、全身を締め付けられ、苦しみもがくBの姿を見ながら、やけに楽しそうに不気味な歌を歌い続けていやがったんだ。何がそんなに楽しいんだよクソッタレ。
せめて残りの仲間達だけでも逃げようと踵を返した所で、俺は不意に後ろ髪を引っ張られ、何かが耳元で叫び声をあげてきた。驚きながら「それ」を振り払うと、そいつのの正体はムウマだった。俺の驚いた顔を見て、首元の紅い珠を妖しく光らせながらケラケラ笑ってた。ゴーストタイプってやつはイカれたヤツか悪趣味なヤツしかいねえのか？ムウマを振り払った後、残っている全員でそのまま玄関に向かって死に物狂いで走ったが、1人は突然壁から現れたゴーストに肩を掴まれ、顔を舐められてしまった。ここではCと言っとく。震えるCの肩を支えながら、命懸けで屋敷を逃げ出した。入った時はもっと沢山仲間がいたのに、無事に出てこられたのはほんの数人だった。Cは今病院にいるが、懸命な治療も虚しく日に日に衰弱していて、もう余命幾ばくもないらしい。こんな事になるってわかってたら、あんなバカなことするんじゃなかった。……おいアンタ、研究員なんだろ？なら、俺が、俺らがしでかしたバカな事をより多くの人に伝えてくれ。俺らみたいになりたくなかったら、くれぐれもバカな事はするんじゃないって。できれば一部の人しか読まねえようなおカタい記事だけじゃなくて、あー、そうだな、掲示板とかSNSとか、よりたくさんの人に見てもらえるような所でもこの話をしてくれ。頼む」
私は、この話をTCBに載せてもいいかと聞いた。彼は快諾してくれた。
職業欄にも記載したように、私は主にゴーストタイプのポケモンを研究している。そして、ゴーストタイプのポケモンには、人間や他のポケモンに危害を加えようとするものも少なくない。むしろ、人に危害を加えないゴーストタイプの方が稀だと言えるだろう。興味本位で迂闊に関わろうとすれば、彼らのような取り返しのつかない事になるのもままあるのだ。それこそ「洒落にならないような」事に。
長くなってしまったが、貴方がこの投稿を最後まで読んでくれた事に感謝を申し上げる。そして、貴方が彼のような目に遭わない事を、私は、心から祈っている。