2023/06/18 23:44

ヒトモシときのみと幼なじみと

私が5歳くらいの時体験した話です

私はシンオウ地方に住んでいました
1歳下の妹と幼なじみとの3人で遊んでいた時、茂みに傷ついたヒトモシを見つけました
他のポケモンに襲われたのか体中傷だらけで、家が1番近かった私はヒトモシと妹を幼なじみに任せて慌ててきずぐすりを取りに家に戻りました

「これで大丈夫かな?」

きずぐすりを使うと、顔の傷は消えなかったもののヒトモシは少し元気になったようで私たちのことをジィっと見つめてから茂みの奥へ消えていきました
その数日後、また3人で遊んでいた時にヒトモシを助けた場所の近くまで来ました
ヤミカラスが鳴いたのでそろそろ帰ろうかと話していると、茂みの中からあのヒトモシが姿を現したのです

「あっ!君はこの前怪我してたヒトモシ?どうしたの?」

幼なじみが話しかけるとヒトモシは着いてきて欲しいような素振りを見せ、奥の方へ歩いていきました

「なんだろ?行ってみる?」

私たちは顔を見合わせ、ヒトモシの後を着いていくことにしました
ゴーストタイプのポケモンは人の生きる力を吸う、なんて言われていますが当時の私たちはそんなことは無いと思っていました
現に近所に住んでいる人たちのゲンガーに遊んでもらっているし、ヒトモシを連れている人もいる
ゴーストタイプがそんなに危ないわけが無いと思っていました
少し歩くと木の側にヒトモシの他にヨマワルとフワンテがいて、根元には見たことの無いきのみが3つ置かれていました

「もしかして、この前のお礼?」

私が聞くと3匹はにっこり笑って嬉しそうでした
その3匹は同じきのみをとりだし毒ではないと証明する為かきのみを食べ始めたため、幼なじみはありがたく受け取りそれにかじりつきました
私も受け取ろうとした時、妹が服の裾を引っ張り

「いなない!!!」

と泣きそうな顔をしていました
妹は何か嫌なことや不安なことがある時、必ず「いなない(いらない)」と言うのです
しかし3匹の善意を受け取らないわけにもいかないので、「いまおなかいっぱいだから家に持って帰るね」と言い訳をしてきのみをハンカチに包んでカバンにしまいました

「あのきのみ、見た目はヘンテコだったけど美味しかったよ。あの子たちに会いに行ったらまた食べられるかな?」

帰り道に幼なじみはケラケラ笑ってきのみの感想を言っていましたが、妹の機嫌はなおる気配がなくその日は解散になりました
家に帰るといつもは大人しい父のグレッグルが急に私に対して威嚇し始めました
私は訳が分からずカバンを落として泣き出してしまい、妹もついに大泣き
父は大慌てでグレッグルを私たちから引き離し、母は私と妹を落ち着かせるために隣の部屋へ連れて行ってくれました
しばらくたってから父とグレッグルが部屋に入ってきて

「どうやらグレッグルは2人に威嚇したんじゃないみたいなんだ」

と先ほどまで私が持っていたカバンの中身を広げ、グレッグルはハンカチに包まれたあの3匹から貰ったきのみを指さしました

「グレッグルのきけんよちは危ないものを見極める特性っていうのは話したね?おそらくグレッグルはこのきのみが危ないって言いたかったんだろうね」

私は幼なじみと一緒にヒトモシを助けたこと、このきのみをお礼にもらったことを話しました

「そっか…、幼なじみちゃんが食べて何ともなかったなら毒はないんだろうけど…。これは食べずに飾るだけにしておきなさい」

そう言ってお母さんからプラスチックのケースを貰い、妹は先ほどと変わらず「いなない!」を繰り替えしきのみを突っぱねていたため、妹の分のきのみもケースに入れて私の部屋の机の上に置いておきました
翌日、不思議なことにケースの中のきのみがきれいさっぱり消えていました
妹は両親と一緒に寝ているし、あれだけ突っぱねていたのでここに来るはずがありません
リビングに降りて人形で遊んでいた妹に聞いてみても「しらない」の一点張り
首をひねりながら幼なじみの家に行くと、昨日の夜から体調を崩しているそうで遊べませんでした

その後も幼なじみはなかなか体調が治らないようでついに入院をしてしまい、いつの間にかあのきのみのことをすっかり忘れてしまいました
幼なじみが入院してから1週間後、あの茂みの近くに行くと見慣れた後ろ姿が奥の方へ歩いていくのを見かけました

「あれ…?なんで、入院してるんじゃ…」

気になった私はこっそり後を追いました
久しぶりに見た幼なじみの後ろ姿はなんだか前より細く、今にも消えてしまいそうな薄さがあり私はゾッとしました
そして歩みが止まり幼なじみの前にはヨノワール、顔に傷のあるシャンデラ、フワンテがいました
幼なじみはフワンテの手を握りながらあのきのみを食べているようでした

「なに…?何が起きて…」

思わず後ずさりした時に枝を踏んでしまい、3匹と1人がこちらを一斉に見ました
幼なじみの顔はおおよそ人とは思えないほどやせ細り、目はくぼみ、口からはきのみの汁が滴り落ち、まるで死んだ人の顔のようでした
私は悲鳴にならない声を出しながらその場を逃げ出しました

その日の夜、幼なじみは病院で亡くなったそうです
私はあの時の幼なじみの顔が頭にこびりついて離れず、お葬式に行くことができませんでした
成長しても未だにゴーストタイプのポケモンが恐ろしくいつかあの3匹が私のことをあの世まで連れていく為にあらわれるのではないか、そう考えてしまいシンオウ地方を離れたものの常にきけんよちの特性を持つポケモンと一緒に行動しないと外も歩けません

当時のことを妹に聞いてみましたが全く覚えていないとのこと
ヒトモシもヨマワルも、死が近い人の側にあらわれるポケモン
フワンテは子供をあの世へ連れていくポケモン
じゃああの見たことの無いきのみは一体なんだったのか
あの時、幼なじみと一緒にきのみを食べていたら私も……

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