2023/06/16 21:04

ご注文はお決まりでしょうか?

洒落ゴス初投稿です
洒落にならないくらい怖いかはわかりませんがうちのじい様から聞いた話をひとつ
少し長い昔話ですがお付き合い下さい

2人の太った若者がウインディを連れてシロガネ山の高いところを歩いていた
この2人はカントーの中でも腕利きのトレーナーでポケモンを鍛えるためシロガネ山へ入ったらしい
強い野生のポケモンを求めた2人はずんずんと歩いていき、案内に雇ったガイドもまごついてはぐれてしまうくらい高いところまで登っていったそうな
何十回と野生のポケモンを倒したところで2匹の控えのポケモンも、連れ歩いていたウインディの体力も限界を迎えたため

「充分鍛えられただろう、そろそろ戻ろうか」
「ああ、それがいい」

と、下山することにした
だが高いところまで登ってきたためにどんどん寒くなっていくばかりか、周りには背の高い草や木が生えていて歩きづらく2人の歩みはツボツボ以下であった

「ううう、寒い」
「寒いおまけに周りも暗くなってきやがった。木や草ばかり生えていて迷ってしまいそうだ」

どちらに行けば戻れるか検討もつかないうちに風も急に強くなりはじめ、しまいには雨までぽつぽつと降り出してしまったそうだ

「やあ、これはまずいな。雨まで降り始めたぞ」
「しかも俺は腹まで減ってきた。昼ににぎりめしを食べたきりだもの。もう歩きたくないなぁ」
「ああ、俺も同じだ。歩きたくないしなにか食べたいなぁ」
「そうだなぁ、食べたいなぁ」

ふと顔をあげると遠くの方に明かりが見えた
2人はこれ幸いと残りの気力を振り絞りその明かりの方へ歩いていく
たどり着いた先には見慣れない造りの小屋がぽつんと立っていた
玄関には『めしどころ』の文字

「これは丁度いい。雨宿りと食事をさせてもらおうか」
「こんなところにお店?へんぴな場所にあるもんだなぁ」
「まあまあ、もしかしたら美味しいものが食べられるかもしれないよ」

2人はお腹がすいて倒れてしまいそうだったのでその小屋の玄関の前に立った
扉には金文字で『どなた様でもお入りください。ご遠慮はいりません』と書いてあった
2人は顔を見合わせ、もしかしたらご馳走が食べられるのかもと大喜び
中に入るとすぐ扉があり、また金文字で『特に若く、肥えた方は大歓迎でございます』とあったものだから2人は大変気分が良くなったそうだ

「大歓迎だってさ!」
「俺たちは若くて肥えてるからね。ポケモンバトルだって強いんだし歓迎されて当然さ」

ずんずんと奥に進むと次はゼニガメの彫刻のされた扉に行き当たり、柄の長いブラシが2つと壁に鏡が2つかかっていた
鏡の横にはこれまた金文字でこうあった
『当店にお入りになる前にこちらで髪をきちんとして靴の泥を落としてください。また靴と上着は脱いでカゴの中へお願いします』

「ふぅむ、これはものすごく偉い人達…チャンピオンや四天王御用達のお店かもしれないぞ」
「なるほどなるほど、それなら俺たちも身だしなみはきちんとしなければ」

2人は文字に促されるまま髪をとき靴の泥を落とした後、上着と靴をカゴの中に入れた
扉を開けるとまたしても廊下が続いており、互いの腹のなる音を聞きながら進んでいくと次はフシギダネの彫刻のされた扉があった
その手前に黒い金庫とおそらくその鍵、金庫にはこれまた金文字でこう書いてある
『こちらの金庫へベルトなど貴金属、特に尖ったものをみんなここに置いてください。モンスターボールは金庫横のトレーへお収めください』

「ポケモンとは一緒に食べられないんだな」
「まあまあ、仕方ないさ」

2人はベルトを取ったりネックレスを外し金庫の中に入れて鍵をかけ、モンスターボールをトレーの中に置いたところで横に置いてある壺に気づいた
壺の横には紙が置いてあり『外は寒かったでしょう、こちらのクリームはサービスでございます。顔や手、耳や足などにも満遍なく塗ってください』
なんという心遣いか!しかもクリームの匂いはモーモーミルクのクリームだったようで、顔に塗るついでに少し食べたそうだ

「いやあ、廊下ばかりなのが気にかかるがなんとも素晴らしい店じゃないか」
「でも俺はもう限界だ、早くなにか食べたいぞ!客に対して注文ばかりじゃないか!」

ぶつぶつといいながら歩いていると、目の前にはヒトカゲの彫刻がされた扉
そしてその扉の前には黒い看板にこう書いてあった
『こちらからの注文ばかりで申し訳ございません、大変お待たせ致しました。お客様のご注文がお決まりになりましたらこちらの塩をからだ中によく揉みこみ、モモンエキスを吹きかけたのちお進み下さい』
ここで2人はハッと顔を見合わせる、思い返してみると何かおかしい
ご丁寧にメニュー表まであるが、これではまるで自分達が調理されるようではないか!
逃げ出そうと扉を押すがうんともすんともしない
そればかりかヒトカゲの扉の先から地面が震えるような唸り声、ボタボタと水のような何かが落ちる音、間違いなくこの先に『何か』がいる

「誰かぁ!!!!助けてくれぇ!!!!」
「嫌だ!!!嫌だ嫌だ嫌だ!!!!嫌だぁ!!!」

2人は泣き叫び扉を叩くもびくともせず、そのうちヒトカゲの扉の先の音がだんだん近づいて来ていることに気づく
ガリガリと扉を引っかく音、待ちきれないとばかりにガタガタ揺れている
ここまでかと2人は崩れ落ち、ぶるぶると体を震わせ声もなく恐怖に顔を歪ませながらただただ泣いて泣いて泣きまくった
その時、後ろから2人の連れていた2匹のウインディが扉を突き破って現れた
扉を引っかく音が止み、ウインディ達はその先の『何か』に唸った後高く吠えて次の扉に飛びついた
扉の先の暗闇に2匹は消えていきウインディ達の咆哮、複数のポケモンが混ざったような叫び声が周りに響き渡り気がつくとあの部屋は消えていた
周りは草や木が生い茂っているシロガネ山のままで、靴やモンスターボールなんかも木の枝にかかっていたり木の根元に散らばっていた
2人は戻ってきたウインディと共に下山できたが、恐怖に歪んだその顔はお湯に着けても何をしても元に戻ることはなかったそうだ

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