皆様、ごきげんよう。
私はカロス地方の、え……？こういった場では名前は名乗らないものなの？そうなのね、なんだかおとぎ話の仮面舞踏会みたい。
ええと、私はとある地方のとある家の一人娘でございます。
生まれつき目が見えず、今このおはなしは全て、私が喋ったことをそのままロトムに文字起こしをしてもらっています。そのため失礼がありましたらご容赦を。
本日この場をお借りしたのは、皆様にご相談したいことがあったからです。
本来ならば自身で本などを読み解決すべきなのでしょうが、何分このような生まれですから……読める本も限られております。
文字は読んでもらえても、絵や図などはどうにも読み解くことが難しいのです。
ですから本題はまさに、あるポケモンの見た目に関することになります。
私には最近、秘密のお友達が出来ました。
天気の良い日には噴水と花壇のあるお庭でお茶をするのが日課なのですが、そこでお茶をしていると、そのお友達は必ずやってまいります。
初めて来た時には噴水近く……いえ、噴水の中？とにかく噴水のあたりからじっと、こちらを眺めておりました。
けれど側にいた使用人は誰一人、そこには何もないと言うのです。なので私も勘違いかと思っていました。
でも次の日も、その次の日も、視線がありました。噴水の中から、じっと。
だから気になって、あなたもこちらでお茶をしましょう、そうお誘いしたんです。
その日からすっかり、その子とはお茶友達になりました。私の膝に座って、クッキーやスコーンを沢山食べる、可愛らしいお友達。
けれど誰もその子を見ることが出来ません。その子が座った場所は濡れているから、みんな幽霊じゃないのか、なんて噂をして……ふふ、お菓子を食べる幽霊なんて、ね？
お菓子を食べて、重さがあって、触ることも出来て。きっと、この子はポケモンなんだと思います。
けれどロトムに聞いても、なんのポケモンなのかわからないのです。
私のロトムは私の住んでいる地方にいるポケモンにしか対応していませんから、きっとこの子は外の地方から迷い込んでしまったんでしょう。
目が見えれば、外の地方のポケモンだとしても、この子の姿形・特徴から、なんていうポケモンなのか調べることが出来たでしょうに。
家族のもとに帰してあげることも出来たでしょうに、歯がゆいばかりです。
ですからみなさんのお力をお借りしたいのです。
この子がなんて名前のポケモンなのか、どんなポケモンで、どこに住んでいるのか。
私のお友達について、どうか少しでもわかることがあればお教えいただければ喜ばしい限りです。
……ふう、こんな感じでいいのかしら……ロトム、ありがとう。
ごきげんよう、でいいのかな？
恐らくお嬢さんのお友達はガラル地方のみずポケモン、メッソンくんではないかな？
メッソンくんは水分に触れると透明になる性質を持っているんだ
…といってもこれは私の推測でしかないからね、ロトムくんにガラルの図鑑をインストールできれば確認ができると思うよ
それから、君はその子を家族のもとにと考えているようだけれどまずはお友達の意志を確認してみることだ。もしかしたら君と一緒にいたいかもしれないからね
あら、こんなにも早く回答がいただけるなんて思ってもみませんでした。
ごきげんよう、匿名様。あなた様からのお返事に感謝致します。
たった今ロトムにお願いしてガラル地方のデータを入れています。これでこの子のことが少しでもわかるといいのだけれど。
もし私と一緒にいたいと思ってもらえたのならば、それはとっても素敵！
けれど私は書いたとおり、このような生まれだから。人にお世話されないと生きられないのに、ポケモンをお世話することなんて到底無理な話です。そんな無責任なこと、お友達には出来ません。
ふふ、でもあなたのお言葉、とっても嬉しかったわ。ありがとう、私のお友達のことを考えてくださって。
メッソン、メッソン。
私のお友達は、そういう名前をしていたのね。
タマネギ100個分の涙なんて、すごい子。以前庭師が大泣きしていたのは、そういうことだったのでしょうね、ふふ。
濡れると見えなくなるから、誰も気付けなかったんだわ。でも私は見えない分、誰よりもあなたを見つけれたのね。まるで運命みたい。
ね、ロトム。皆様にもっとメッソンのことを教えていただけるようお願いしたいの。
この子はガラル地方にしか住んでいないの？
どんな暮らしをしているの？
どんな見た目をしているの？
どんなバトルをするの？
どんな進化をするの？
図鑑や文字ではわからないメッソンのことを、もっといっぱい知りたい。
そう皆様にお伝えして、お願い。
こんばんは、先程の回答者だよ
お友達はやっぱりメッソンくんだったんだね
とても臆病だからあまり姿を見せないんだが君には心を許しているみたいで文字だけでもほっこりしたよ
メッソンくんは珍しいポケモンで、現状ガラル地方とレンティル地方という場所でしか見つかっていないんだ
大きめの丸い頭にこれまた大きなヒレ、くるんとと丸まった尻尾が特徴だ
さっきも言ったがメッソンくんは臆病でね、水の中に潜んで暮らし、危険を感じるとタマネギ100個分の涙で身を守るんだ
…とここまで書いておいてなんだけどね、結局のところ僕が教えられるのは図鑑の域を出ない
どうしても図鑑や文字よりも鮮明に知りたいなら、メッソンくん自身に聞くことだね
実を言うとだ、僕も目が見えないんだ
君と違って事故で見えなくなったんだけどね
それと、メッソンくんの進化系の子とスマホに入っているロトムくんと暮らしている
本当は手放そうとしたんだ…。でも、彼らは何度も戻ってきてね…。
何が言いたいかというとだ、君は少しわがままになってもいいんじゃないか？
責任感が強いことはいいことだけれどね、すべてを諦めてしまうことはないと思うよ
なんて長くなってしまったが、お嬢さんとメッソンくんがお互いに幸せになれることを願っているよ
ごきげんよう、匿名様。
今日は一日、あなた様から頂いたお返事について考えていたの。遅くなってしまってごめんなさい。
今はベッドの中で、こっそりとロトムに話しかけております。じいやには内緒です。この言葉は上手く文字に出来ているかしら。ねえロトム、前みたいに私の言ったこと全てを書いてしまってはダメよ？
メッソンのことを教えてくださってありがとうございます。可愛らしいポケモンなのね、メッソンは。それにすごい子だわ。タマネギを切ったことはないけれど、１個でも大変と聞くから、きっと涙が止まらなくなってしまうのでしょう。
匿名様も私と同じ境遇だと知って、大変驚きました。
けれどあなた様はそれでもポケモントレーナーなのね。
……いいえ、匿名様自身と、匿名様のメッソンとロトムが、ポケモントレーナーであることを選んだんだわ。
それがどれだけの勇気を必要としたか、私にはわかりません。
私は空の青を、メッソンの青を知らない。
匿名様は青を知っている。知っているのに、それを見ることを奪われてしまった。
どちらが……なんて比較も出来ようがないけれど、一般的に見れば私たちは不自由で、不幸で、孤独で、トレーナーなんて資格もない。
けれど匿名様は、それでも選ぶことが出来たのね。
それはメッソンたちのおかげなの？
ポケモンが傍にいるということは、それほどに心強いの？
選ぶことの勇気と、身侭に振る舞う意思と、絶壁かもしれない先へ踏み出す覚悟を、どうか私に教えて。
やあ、こんばんは
夜遅くにすまないね
ロトムくんが気づいてくれて良かったよ
僕はね、見えなくなったときはなんというか…うん絶望した
夢だった俳優もトレーナーとしての道も閉ざされたわけだからね
メッソンくんやロトムくんの夢まで奪うわけにはと思って信頼できる友人に託そうとした
けれどもね、怒られたんだメッソンくんたちに
自分たちの気持ちは無視かって あのときは腹立ったロト ごめんって言ってるだろ
えっとどこまで言ったかな
そうそう彼らに怒られてね、気づいたんだ
離れることのほうが余程怖い
迷惑をかけるかもしれない、バトルはもうできない、なにしろ今までとは何もかもが違うから
それでも彼らは隣にいてくれた
ならばそれに応えるのが僕の精一杯のお礼だと、そう思ったんだ
リハビリで家の中のことや職場のことは一人でできるようになったけれどどうしても他の誰かに助けてもらわなければいけないことはある
でもね、それでいいと思えるようになったんだ
だって、僕は初めから一人で生きてきたわけではないから
見えていても見えなくなっても彼らは助けてくれていた
初めから何も変わっていなかったんだ
責任だ、迷惑だと難しい事を考えてしまうけれどね、結局のところ一緒に居たいか居たくないかの2択なんだよ
分からないことは怖い、踏み出すことは怖いだろう
だからね、僕がいつも勇気をもらっている言葉を贈ろう
旅に出たあの日、それと、またメッソンくんやロトムくんと一緒に暮らそうと決めた日に友人が言ってくれたんだ
「ポケモンと一緒ならなんだってできる」ってね
ごきげんよう、匿名様。
ふふ、あなた様のメッソンとロトムは、とても素敵なお友達なのね。それにご友人の方も。きっとあなた様のことが大好きなんだわ。
ポケモンと一緒ならなんだってできる。
あなた様からいただいたその言葉を胸に、私は今日、一歩を踏み出してきました。
あなた様に最初に言われたとおり、メッソンに聞いてみました。
あなたはどうしたい？って。
返事？ふふ、返事はね、メソ、ですって。なんて言ったのかしら。
でもね、言葉は分からなくとも、意味って伝わるものなのね。まだしばらく、私のそばにいてくれるみたい。
今は私のそばで、丸くなって寝ているの。ベッドは乾いたままだから、きっと隠れずにそのままで。
もしかするとメッソンはいつかはどこかに行ってしまうかもしれないけれど……その時までは、私のそばで勇気をくれる存在になってくれるんだわ。
ポケモンって不思議な生き物。見えなくとも傍にいるだけで心強いのね。
だからもう一歩、勇気を持って踏み出してみてもいいかしら。
匿名様。私と、お友達になっていただけませんか？
こんばんは、返事が遅くなってすまないね
君の大切な一歩のその一助になれたならこれほど嬉しいことはないよ
メッソンくんが姿を見せたままにしてくれるなら、君が勇気をもらっているように、メッソンくんも君から勇気をもらっているのかもしれないね
トレーナーとポケモンはそうやって強くなるものだから
それと、君と僕が友達になることだがもちろん大歓迎だ
顔を知らない友達は大勢いるが名前も声も知らない友達とは不思議なものだね
ただし、約束をしてほしい
もしもネットで出会った人と友達になったとして、その友達に会うことになったなら、決して一人で会わずにじいやさんや使用人さんと会うこと
たとえ僕が相手でもね
ロトムくんがしっかりしているから大丈夫だと思うけれどネットには色んな人がいるんだ
悪い人もいるし、普段とは別人のように振る舞う人もいる ホントはもっとガサツロト〜
それ入力されてない？大丈夫？
…きっと君はこれからたくさんの人やポケモンと出会うだろう
いいことばかりではなく悪いことも起きるだろう
それでもきっと大丈夫！君は勇気を出して踏み出したのだから
君の一歩の先に多くの幸せが降り注ぐことをガラルの地から祈っているよ
ごきげんよう、匿名様。快いお返事、大変嬉しいです。
本当、名前も声も、なんにも知らないお友達なんて初めて。ふふ、また秘密のお友達が一人増えてしまったみたい。
ネットとは、不思議なものなのね。ご忠告ありがとう。必ず気を付けておきます。
けれどあなた様が粗野な方とは到底思えないわ。
だってこんなにも親身に、私とメッソンのことを想ってくださっているんだもの。きっと素敵な方よ、ね？
メッソンと出会って、あなた様とお友達になって、なんだか胸のあたりがいっぱい。これがきっと、わくわくする、ということなんだわ。
素敵な出会いも、そうでない出来事も、全てが待ち遠しく感じるの。
ポケモンと過ごすってこういうことなのね。あの時、勇気を貰わなければこの感情とも出会わなかった。
ありがとう、本当に何度お礼を言っても足りないくらい。
あなたにも、どうか素敵で幸福な毎日があらんことを。
親愛なる匿名様へ、カロスより愛を込めて。