ポケモンと暮らしたくない

って言ってた、スクールの友達の話。
その子はポケモンが嫌いだった。うちのスクールって今じゃ珍しいポケモンを連れて入れないタイプのスクールで、そこに来た理由も「ポケモンが嫌いで少しでも関わる時間を減らしたかった」って言ってた。大体はアレルギーとか親の方針とかなんだけどね。
最初は特定のタイプとかポケモンが嫌いなんだと思ってた。むしタイプ苦手な女の子とかよくいたし。でもその子はむしタイプだろうとフェアリータイプだろうと嫌いだと言っていた。
「どうして、ポケモンと暮らさなくちゃいけないの」
「ポケモンと暮らしたくない。嫌だって言ってるのにどうして連れてくるの」
そういうことを言うもんだから、よく他の子と喧嘩になっていたのをよく覚えてる。
私はポケモン大好きで、そのスクールには家から近かったからってだけで通ってた。私の相棒はユニランで、ものすごく人見知りだったから連れて入れないってのも問題なかったからね。
私と彼女が友達になった理由はまあ単純で、お互いに人物画を描くことが好きだったから。あとは私がポケモンの話をしなかったから。
まあわかると思うんだけど、ウチの子自慢ってしたくなるから、みんなその子にもポケモンの話を振ってたのね。普通は無理だと思う。ポケモンの話を一切しないって。ただ私とその子の間には「絵」っていう共通の趣味があったから、その話だけで一日中会話出来た。それだけ。

「なんかね、すごく嫌悪感があるの」
仲良くなってしばらくした頃、ポケモンが嫌いな理由を聞いた。
「恐怖もあるかな……ポケモンは人間にできないことがたくさん出来るでしょう。ポケモンが少し加減を間違えるだけで人間はあっけなく死ぬ。ウチの子は大丈夫、ってみんな言うけど、私はそれが信用出来ない。ポケモンが何を考えてるかも分からない。だから、ポケモンとは一緒に暮らしたくない」
そう、話していた。

ある年に、特定のポケモンにアレルギーがある子が転校してきた。それだけなら珍しくもないんだけど、その子はその特定のポケモンと暮らしたくて仕方のない子だった。

そのアレルギーの子と、ポケモン嫌いの子でクラスを巻き込んだ大喧嘩になった。
「ポケモンと暮らしたくても暮らせない人がいるのに、特にこの学校には多いのに、そんなことを公言しないで」
「私はポケモンと暮らしたくない。押し付けようとするな迷惑だ」
だいたいこんな主張だった思う。
私は、友達の側に着いた。私には無い感情だったけど、彼女の話に納得出来ていたから。
けどほとんどの人たちは違ったようで、彼女を叱責する声が増えて、増えて、3ヶ月後には彼女は追われるように転校していった。

転校する前日に「人間もポケモンも変わらなかったかもしれない」と私に残して、彼女はどこかへ行ってしまった。
もう何年も前の話だ。

今私はそのスクールで教師をしている。
私が卒業してしばらく経ってから方針が変わり、今ではポケモンを連れての入校ができる。
私の相棒はランクルスになって重いものを運んだりする時に手伝ってくれる。
まあ、一般的なスクールの教師になったわけ。

あの時転校して言った友達の行方は知らない。
あれから連絡のひとつもとってない。
ただたくさんの生徒と向き合う教師として、彼女のことをいつも考えている。