謎の場所

13年前、俺は相棒のコダックと一緒に、シンオウ地方のポケモンリーグで清掃員のバイトをしていた。ある日、四天王の部屋の掃除をしていたとき、俺はふざけて「コダック、なみのりだ！」なんて言いながらバケツをひっくり返した。そしたらコダックが驚いちゃって、床にこぼれた水は大きな波になって俺のほうに襲いかかってきた。

バランスを崩して転んだ俺は入り口の扉にぶつかった。その拍子に扉が開いて、あー外まで水浸しになって怒られる…と思った瞬間、いきなり周囲が真っ暗になった。自分の目が開いてるのか閉じてるのかも分からない真っ暗闇。手探りで携帯電話の電源を入れて、画面の薄明かりで周囲を照らしてみたら、自分の体はぼうっと照らされるけど他には何も見えない。

俺はパニックなりながら出口を求めて暗闇の中をさまよい歩いた。しばらくして携帯がピコンと鳴ったから、えっ…と思って開いてみたら、電波立ってるじゃん！

メールはバイト先の上司からで、水浸しの部屋にコダックを残して俺が突然姿を消したことにブチギレてた。電話に出ろと書いてある。どうやら電話は繋がらないけどメールならできるみたいだ。

上司に現状を説明しても信じてくれないから、母親にメールしたら、すぐ警察に捜索願を出してくれた。警察曰く、俺の携帯はミオシティにある基地局と繋がってるらしい。最近のスマホは持ち主の居場所がピンポイントでわかるらしいけど、俺の携帯は古いから居場所の手がかりはそれだけ。

どこかの地下倉庫に閉じ込められてるのかな…それにしては広すぎるよな…とか考えながらしばらくうろうろしてると、母親からメールが来て、俺の携帯が今度は214番道路の基地局に繋がってるって。そんな距離すぐに移動できるわけないだろ。

警察が捜索に行くからそこを動くなと言われたけど、実はその数分前から俺の足は止まっていた。突然下半身だけが動かなくなったんだ。上半身は動くから、とりあえずそこに突っ立ったまま携帯で連絡を取り続けた。

3日後、警察から、水も食料もないのにどうしてそんなに元気なのかと聞かれた。俺にもわからん。疲労も空腹も感じないし眠くもならない。携帯の充電も減らないから、ずっと同じところに突っ立ったまま携帯をいじってる。

警察は次第に俺の言うことを疑うようになり、結局俺の狂言だと結論づけられて、2週間で捜索は打ち切られた。友達ともだんだん連絡が取れなくなって、俺を信じてくれるのは母親だけになった。そんな状況が1年以上続くと母親も精神不安定になってきて、ある日「もうしんどい。頭が痛い」というメールを最後に音信不通になった。

それでもネットは使えたから、ここの掲示板とかで寂しさを紛らわせながら、俺はなんとか正気を保ち続けてた。そしたらこのあいだ携帯会社からメールが来て「ご契約中のデータ通信方式は来年1月末でサービスを終了します」だってさ。

じゃあそれ以降、俺はこの暗闇の中、時々携帯に保存したコダックの画像や過去のメールを見返したりしながら、ずーっとここに突っ立ってなきゃいけないの？このまま死ぬこともなく永遠にそんな時間が続くの？

この謎の場所に来てから、携帯でこまめにレポートを書いてた内容を、今日この掲示板に投稿してみた。信じてくれなくていいよ。コメントもいらない。ただ外の世界との通信が途絶える前に、俺が生きた証、そしてこれからも生き続ける証を残したかっただけなんだ。