あの日もこの位暑かったと思います
9歳の時、夏休みにホウエンのハジツゲタウンに住んでいる祖父母の家に遊びに行った時のことです
ハジツゲタウンは山のふもとにある緑豊かな小さな村で、祖父母は美味しい野菜を用意して私たち家族を待っていてくれました
毎年祖父母に会えるのはもちろんでしたが、私の1番の楽しみは親戚の集まる日に会えるお兄ちゃんと遊ぶ事でした
大人たちが家の中で宴会をしている時、お兄ちゃんは10歳の誕生日にヒトカゲをもらったし裏の森に探検しに行こうと言い出しました
祖父母の家の裏には大きな森が広がっていて、私を含めた子供たちは祖母からこう言いつけられていました
「この森には神様が住んどるんじゃ。勝手に入ったら攫われて食われてしまうけえ、絶対に入ったらいけんよ」
話を聞いた時は食われてしまうという恐怖で大泣きしましたが、あれから成長してお兄ちゃんとヒトカゲがいるし何かあっても大丈夫だろうと謎の自信を持ってしまいました
そして大人たちの目を盗んで、私とお兄ちゃんは森の中へと入っていきました
森の中は適度に太陽の光が差し込み、住んでいるポケモン達の姿を見れるくらいには明るく私たちはどんどん進んでいきました
奥に進むにつれてだんだんと薄暗くなってきてと怖くなってきた私は
「そろそろかえろうよぉ」
とお兄ちゃんに声をかけましたが
「へーきへーき!神様なんていないって!」
お兄ちゃんは笑いながらお構い無しに進んで行くためしぶしぶその後ろ姿を追いましたが途中、私が半泣きになってきたのを見て「お守り」と言って両手首につけていたピカチュウのリストバンドを片方私につけてくれました
そのままどんどん進んでいくと、急に開けた場所にたどり着きました
そこだけ草木が整理されていて真ん中には巨大な木が私たちを見下ろすようにはえており、その根元には小さな石造りの祠のようなものがありました
「なんだろこれ」
お兄ちゃんが祠に触れると風化して脆くなっていたのか崩れてしまいました
「壊れちゃった…まあいいか、他にはなにか無いかな」
壊れた祠を気にすることも無く、私たちは大木の周りを見回しました
その時、急に風がザワザワ、ゴウゴウとふきはじめ周りが真っ暗になってしまったのです
「えっ?なに?お兄ちゃんどこ!?」
「まって!今ヒトカゲだすから!」
くりだしたヒトカゲのしっぽの炎が暗闇の中から、私たちの目の前に見たことの無い恐ろしい顔を照らし出したのです
『うわあああ!?!?!?』
2人同時にかけだし、そこから無我夢中で走りました
私の頭の中はあの恐ろしい顔でいっぱいになっていて、お兄ちゃんは無事なのかも考えられなくなっていました
気がつくと祖父母の家の前にたどり着いていて、森に入ったのは昼だったはずなのにもう夜になっていました
大人たちは私とお兄ちゃんの姿が見えなくなったことに気づいて周りを探していたそうです
両親に宥められながら私は起きたことを全て話しました
祖父母は顔を真っ青にしましたがすぐ表情を戻し、今日はお兄ちゃんを探さないと親戚全員に伝えました
そして、私が寝る部屋にむしタイプのポケモンを何匹か置いていきその夜は終わりました
翌日、祖母にあの祠のことを聞いてみましたがなにも教えてくれませんでした
その後の捜索で衰弱したヒトカゲは発見できたものの結局お兄ちゃんは見つからないまま夏休みは終わり、帰りの車に乗る前に森の入口を見やるとコノハナが1匹こちらを見ていました
そのコノハナは遠目からでしたが、お兄ちゃんのピカチュウのリストバンドのようなものをつけていたのです
あの日から私は裏の森へ近づくことを禁止されたため、祖父母の家に遊びに行くことは無くなりました
お兄ちゃんはどこに行ってしまったのか
あの顔は一体なんだったのか
最後に見たコノハナは見間違いだったのか
真相はすべて森の中に残したまま消えてしまいました